• HOME
  • 特集記事 , まちあるき
  • 《気になるスポットに潜入してみた!|第1弾》 映画館が醸造所に!? ビール好き必見・必飲の石巻の新たな味が誕生!

《気になるスポットに潜入してみた!|第1弾》 映画館が醸造所に!? ビール好き必見・必飲の石巻の新たな味が誕生!

潜入場所|クラフトビール醸造所「イシノマキホップワークス」(石巻市中央1丁目3-14)

今、石巻の新たな名産品として注目を集めているものがあるのを知っていますか? それが石巻産ホップを使ったクラフトビールです。2022年7月には石巻中心市街地にクラフトビール醸造所も完成しており、しかもその場所は石巻市民ならば多くの人が知っている「日活パール劇場」だった場所だと言うのです。これは気にならないはずはない、と今回はそのクラフトビール醸造所「イシノマキホップワークス」に潜入してみました。

目次
 ・巨大な壁画のあるカフェのような建物が醸造所?
 ・見渡せばよみがえる映画館だった頃の面影
 ・全国への恩返しを「巻風エール」の名前に込めて
 ・文化の灯を絶やさない先人の覚悟を受け継いで
 ・世界的に評価される醸造長が選んだ「石巻」という新天地
 ・負けず嫌いの醸造長が目指す世界一のビール
 ・石巻に来たら絶対に寄りたくなる場所にしたい
 ・イシノマキホップワークスのビールのご購入はこちらから

巨大な壁画のあるカフェのような建物が醸造所?

 今回の潜入先である醸造所「イシノマキホップワークス」はJR石巻駅から中心市街地へ徒歩10分ほどの場所にある。
 目的地に近づくとまず目に入ってきたのが、巨大な壁画があるカフェのような建物。これが醸造所かと思い、中に入ってみるとどうやらここは「シアターキネマティカ」というカフェ併設の劇場とのこと。スタッフの方から「ホップワークスならこの裏ですよ。ご案内します」と案内していただいた。
 聞けば、この劇場と醸造所がある通りはかつて「文化通り」と呼ばれ、石巻の中でも娯楽の中心地として賑わった場所だという。昭和から平成にかけて多くの地方都市がそうだったように賑わいは影を潜めていったが、東日本大震災から12年近く、今まさに「文化通り」としての新たな歩みが始まっているらしい。

外観01

 今回の目的地は劇場のまさに真裏にあった。一見すると何の建物か分からないが、壁やシャッターにはローマ字で「ISHINOMAKI HOP WORKS」の文字。半分ほど開いたそのシャッターからはビールを製造する機械なのだろう、大きなタンクが覗いている。

外観02

見渡せばよみがえる映画館だった頃の面影

「お待ちしてました! どうぞどうぞ中に」
 背の高いタンクが立ち並ぶ奥から元気に声をかけてくれたのが「(一社)イシノマキ・ファーム」の代表・高橋由佳さん。タンクが大きいだけに小柄に感じられるが、何よりも素敵な笑顔が印象的だ。

「ビールの醸造所は初めてですか? それならなおさら新鮮でしょう? これが麦芽を粉砕する機械で、これが濾過をする機械で、これがそれを発酵させる機械で……」

機械たち01
機械たち02

 ビール瓶が入った段ボールや背丈ほどに積まれたビール樽の間を縫うように歩きながら一つひとつ丁寧に説明してくれる。整然と並ぶタンクからは機械の重低音が鳴り響き、湯気を通るたびにほんのりと麦の香りが漂う。

ビール樽
瓶蓋

「ここが映画館だったなんて想像できないかもしれませんが、ほら、上を見てみてください」
 そう言われて、高橋さんの指差す方を見てみる。

アーチ状の天井

「天井がアーチ状になっているでしょう? あれは映画館だった頃のままの形なんです。ここは『シネマ1』という1番大きなホールで、ほら、あそこも」
 今度は天井付近の壁に目を移す。
「あの小さな窓、あれが映写室。あそこから映画をスクリーンに映していたんですよ」
 クラフトビールの醸造所に潜入しに来たはずが、同時に歴史的に貴重な建物を見せていただいているような気持ちになってくる。
「不思議でしょう。まさか私たちもここに醸造所を作るなんて思ってもみなかったもの」

全国への恩返しを「巻風エール」の名前に込めて

 醸造所が完成したのは2022年7月。高橋さんはそのきっかけを語る。
「そもそも私たちは、震災後に『一般社団法人イシノマキ・ファーム』という団体を立ち上げて、以降は農業を通じた自立支援をサポートしてきたんです。その中でご縁があって2017年からはビールの原料となるホップを育てることになって。知っていますか? ホップの花言葉は『希望』なんですよ! これはやりたい! と思って」

ホップの実

 当初、たった20株から始まったホップの栽培も今や1,000株を優に超え、石巻の北上町にあるホップ畑では夏になると高さ5メートルを超えるホップの苗が見事なグリーンカーテンを作るまでになった。現在、県内でホップを栽培しているのはここだけだと言う。

収穫

 初めての収穫を迎えた2017年の夏、地域の方々から収穫したホップを使った商品を望む声が寄せられた。それを聞いた高橋さんが思い描いたのが、「震災を乗り越えた石巻のみんなで、石巻産のホップを使ったビールで元気に『乾杯っ!』ってできたらどんなにいいだろうか」という夢。でも、その5年後には醸造所を作ってしまう高橋さんだ。すぐさま岩手県の醸造所に依頼し、夢を形にするために動き出す。まだ石巻の醸造所は構想すらなかった頃の話である。
 ビールが完成するまでの間には、石巻市内でビール作りを盛り上げるためのワークショップを開いた。その中で最も大事な議題になったのが「ビールの名前」。色々なアイデアが飛び交う中で、最終的に一つの名前に落ち着いた。それが今や多くの人から人気を集める『巻風エール』だ。
「震災の時は全国、全世界の方々からたくさんのエールを送ってもらいましたよね。だから今度はこのビールをきっかけに石巻から新しい風を巻き起こして、エールを送り返したいと思って」

巻風エール

『巻風エール』は石巻市内で震災後に開かれている総合芸術祭「リボーンアート・フェスティバル」でお披露目されて以降、各種イベントや通信販売、そして地域の飲食店での提供によって広く親しまれるようになった。
「最初は聞き慣れなかった『巻風エール』という名前を、今はたくさんの人が当たり前に呼んでくれる。その様子を見るたびに嬉しくて嬉しくて」
 そう高橋さんは目を細める。

高橋さん

文化の灯を絶やさない先人の覚悟を受け継いで

 一方で、たくさんの人に手に取ってもらえるようになると、「せっかくホップは石巻産なのに、醸造は岩手なんですね。全部石巻だったらもっともっと応援したくなるのに」という声も聞こえてくるようになった。
 普通なら諦めても不思議ではない中で、高橋さんは違った。
「確かに! 醸造所を作るのも面白そうだし、石巻をもっと盛り上げられるかも」
 ただ実現へは数え切れないほどの課題がある。場所、資金、醸造に精通した人材……。ホップ栽培は農業だとしても、ビール作りはまさに畑違い。何から手を付けてよいのかも分からない。

ホップ畑

 そんな折、高橋さんのもとにある情報が入る。
 それが2017年に支配人の清野太兵衛さんの逝去により、惜しまれつつ歴史に幕を閉じた「日活パール劇場」の建物が売りに出されているという情報だった。清野さんと言えば、「文化の灯は絶やしてはいけない」と震災による被災からわずか3カ月で劇場を再開させるほど、石巻の文化に情熱を注ぎ続けてきた方だ。偶然にも天井の高い劇場はビール作りには最適な建物。醸造所を作るという覚悟と、先人の覚悟、この2つの覚悟を胸に高橋さんは「ここで醸造所をやる」と決めた。

日活パールの跡

 だが、肝心の醸造に精通した人材はどうするか。そこで声を掛けたのが面識のあった県内のビール醸造所で勤務する石巻市出身の男性。しかし、その男性とのご縁は残念ながら実らず、ダメ元でその醸造所の醸造長にも打診をしてみたところ……。
「ぜひ、やらせてください」  まさかの返事が返ってきたのだ。

世界的に評価される醸造長が選んだ「石巻」という新天地

岡さん

 「イシノマキホップワークス」で黙々と働くスタッフの中に、ひと際恰幅の良い男性がいる。この人物こそ、醸造所作りの最後のピースだった醸造長の岡恭平さんだ。
 岡さんは前述した県内の醸造所で醸造長を務め、その間に世界的に権威のある「インターナショナルビアカップ」で四度の銀賞と二度の金賞を獲得するなど手腕を発揮。2019年にはスタウトのカテゴリーチャンピオンにも輝いたほどの凄腕だ。訪れたこの日も真剣な表情で作業に勤しんでいた。
 そんな人材がどうして二つ返事で石巻に来ることを決めたのか。
「もっと自由に楽しく挑戦的にビールを作り続けたくて。本当、単純な理由ですよ」

岡さん

 昨今のコロナ禍はクラフトビール業界にも少なくない影響を及ぼしており、岡さんが勤めていた醸造所でも、慎重な経営を余儀なくされていた。本気でビールに向き合いたいのに、そうもできない。
「今振り返ってももどかしい日々でしたね」
 そうして新天地として飛び込んだ石巻。ただ、今でこそ設備は整っているものの、岡さんが合流した当時はまだ何もない劇場のままだった。
「なので、まずは醸造所を作るのが最初の仕事。でも、私もこれまでビールを作ったことはあっても、醸造所を作るのは初めてでした(笑)。これまでにお世話になった方々から助言をいただきながら一歩一歩進めていくしかありませんでした」

負けず嫌いの醸造長が目指す世界一のビール

醸造所が稼働してから約半年。そこには、まだまだ真新しい輝きを放つ機械と、「自由にビール作りに挑戦したい」という想いを今まさに実現している岡さんの生き生きとした表情がある。
「季節による水質や気温の変化で味も変わりますから、いつだって気が抜けません」

ビール作り

 この半年間で、看板商品の『巻風エール』をさらに改良するだけでなく、しっかりとした苦みとジューシーな味わいが特徴の『巻風IPA』、バナナのようなフルーティさとスパイシーな香りがクセになる『巻風WHEAT』といった新たな定番商品も生み出した。

『巻風IPA』、『巻風WHEAT』

 また、2022年だけで8件に上る他企業とのコラボレーションも行い、昨年秋には人気ロックバンド「RADWIMPS」のベーシストである武田祐介氏と共同開発した『武田印のペールエール』でも話題を呼んだ。さらに昨年12月には東北の13社の醸造所が結集してビールを仕込む「東北魂ビールプロジェクト」として限定の『石巻海風ホワイト』も手がけるなど、全国のクラフトビール業界にも新しい風を吹かせている。

飾られているサイン

「美味しいものを作るのが私の責任。クラフトビール業界は横の繋がりも強い業界なのですが、親しいからこそ絶対に負けたくないんです。そのために今目標としているのが、2年に1度開かれる『ワールドビアカップ』で世界一を獲ることです」
 岡さんは真剣な眼差しでそう言い切った後、「世界一を獲ったら花火でも打ち上げるので、世界一の味を飲みに来てくださいね」と再び柔らかな笑顔を見せてくれた。

岡さん

石巻に来たら絶対に寄りたくなる場所にしたい

「まだ時間はありますか? せっかくだから」
 潜入も終わりかと思った頃、高橋さんにそう誘われて醸造所の奥にある扉を開くと、そこには薄暗い通路が続いていた。

シネマ2

「実はね、『シネマ1』を醸造所にすることはできたんだけど、この建物にはもう1つシアターがあってこっちが少し小さめの『シネマ2』なの。まだ手付かずなんだけど、ここでも何かできないかなって」
 部屋を覗くと劇場だった頃の面影そのままに椅子やステージが残っている。

座席

「何ができるかは未知数なんだけど、ワクワクするでしょ? この階段を上ると『シネマ1』の映写室があって、この壁を壊すと『シアターキネマティカ』の中庭に繋がるの。みんなで協力して、石巻に来たら絶対に寄りたくなる場所にしたいねって」

残された機材たち

 一時は閉館して全ての扉が閉められたこの建物。その扉が街の人々の力によってもう一度開かれ、そこを小さな小さなホップから生まれた新しい文化の風が吹き抜けていく。ホップの花言葉は「希望」。パールの宝石言葉は「無垢」。希望のエールを全国に届けたいという想いと、美味しさに挑戦し続けたいという無垢な情熱が詰まったビールが、今日も、これからも、この場所から生まれていく。

映画館から醸造所へ

イシノマキホップワークスのビールのご購入はこちらから

<通信販売>
イシノマキホップワークスオンラインストア
<石巻市内>
イシノマキホップワークス直売所 ※醸造所となり
IRORI石巻
いしのまき元気いちば
石巻うまいものマルシェ
四釜商店
酒の藤原屋

巻風エール

☆毎月第4日曜日はブルワリー解放DAY☆※12月〜2月は休止
イシノマキホップワークスでは、冬季期間(12月〜2月)を除く毎月第4日曜日の11:00〜17:00に施設の見学やビールと軽食を楽しめるブルワリー解放DAYを行っています。

クラフトビール醸造所「イシノマキホップワークス」
住所|宮城県石巻市中央1丁目3-14

最新情報はイシノマキホップワークスのSNSをご覧ください。
Facebook
Instagram
Twitter


WRITTEN by 口笛書店
2019年6月、宮城県石巻市に生まれた出版社。石巻に在る出版社だから作れる本、口笛書店だから出せる本というものはなんなのか。時間をかけて模索していきながら出版活動を行っていきます。地元での出版活動のほか、関東を中心に書籍の執筆編集、ウェブコンテンツの企画編集、広告、コピーライトなど、言葉を取り巻くクリエイティブコンテンツの制作も手掛けています。
公式HP|口笛書店

関連記事一覧