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《一緒に“好き”に会いにいこう|3人目・4人目|高校生・鈴木優那さん・鈴木謙吾さん》 “好き”に出会える石巻は「地元」だけど「新しい」場所

  “好き”に会いにいこう——。石巻マンガロードの新しい合言葉にちなんで、石巻に暮らす方々に、石巻に住んでいるからこそ見つけた “好き”なものを教えてもらうこの企画。その3人目・4人目として、宮城県石巻高校に通う双子の姉弟、鈴木優那さんと謙吾さんの “好き”に会いにいく。

 目 次
 ・好きな場所①:思い出の遊び場「石巻市子どもセンター らいつ」
 ・好きな場所②:穏やかな景色と時間に包まれる「かわまちオープンパーク」
 ・好きな人:新たに出会った「石巻の面白い大人たち」
 ・地元の新しい“好き”に気付く日々

好きな場所①:思い出の遊び場「石巻市子どもセンター らいつ」

 石巻マンガロードの合言葉が描かれた看板が建つ立町通り。様々な商店が立ち並ぶその通り沿いの一画に、一際オシャレな外観が目を引く「石巻市子どもセンター らいつ」という児童館がある。
大きなガラス窓の向こうの館内には、椅子に腰掛けて思い思いの時間を過ごしている親子や、その周りを元気に駆け回る子どもたちの姿があり、施設内の雰囲気が伺い知れる。

石巻市子どもセンターらいつは、開放的な窓が特徴的な2階建ての児童館

 「らいつは、私たちにとって小学生時代の思い出の場所なんです」
 そう話すのは、双子の姉の優那さん。その言葉に重ねるように、弟の謙吾さんは「友達と遊ぶ時には、公園か、友達の家か、らいつが定番の遊び場でしたね」と思い入れのある場所を眺める。
「らいつ」は、0歳から18歳までの子どもとその保護者が誰でも自由に利用できる児童館で、東日本大震災後に公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが、子どもたちのアイデアを形にしながら2013年に整備し、石巻市に寄贈。現在は市の児童館として、子どもたちの居場所となり、さらには自己実現を後押しする大切な場所になっている。
 2階建ての施設内には、ギャラリースペース、読書コーナー、スポーツ室、防音室などがあり、平日・休日問わず、地域の様々な年代の子どもたちが好きな時に訪れては、学校の友達はもちろん、世代と学校を超えて仲を深め、自由な時間を過ごしている。
 ここから徒歩10分ほどの距離にある住吉小学校出身の二人が初めてらいつに訪れたのは、小学1年生の遠足の時。らいつは住吉小学校の二人にとっては学区外だったものの、その後、子どもだけで立ち寄ることが唯一正式に認められた学区外の場所となり、小学3年生頃から頻繁に足を運んではたくさんの思い出を育んだ。

読書スペースで懐かしの本を手にとる優那さんと謙吾さん

 今回、小学生以来にらいつを訪れた謙吾さんは館内を歩きながら、「新しい漫画やおもちゃがたくさん増えてますね。だけど、雰囲気はあの頃のまま」と目を細め、優那さんも「放課後に友達と遊ぶ時には、『らいつに集合ね!』が合言葉でした。みんなで集まって、おしゃべりをしたり、お菓子を食べたりして、特別なことはしなくても、それが楽しくて」と、館内の色々な場所で小さな頃の自分自身と再会しながら、その度に足を止める

2階から施設内を見渡す優那さんと謙吾さん

 「あの卓球台、懐かしいね」
 「らいつの防音室が人生初カラオケだったなあ」
 「不思議と久しぶりに感じないよね」
 歩いて見て回れば数分で一周できるほどの広さにも関わらず、そこには小学生時代のたくさんの記憶がタイムカプセルのように埋まっている。 館内を一周し終えた時、謙吾さんがふと、「実は僕、小学生の頃は、優那に心配されるほど内気な性格だったんですよね」と少し恥ずかしそうに呟くと、それを聞いた優那さんも「そうだった、そうだった」というように何度も頷く。そしてまた少しだけ間を空けて、謙吾さんは、「今日久しぶりにらいつに来て、僕はこの場所に成長させてもらったんだなと改めて思いました」と、小学生時代の自分と、高校3年生になった今の自分をぞれぞれに見つめていた。

好きな場所②:穏やかな景色と時間に包まれる「かわまちオープンパーク」

 北上川沿いに東日本大震災後に整備された堤防空間「かわまちオープンパーク」。石巻の象徴である雄大な川と、どこまでも透き通った空を見渡せるこの場所も、二人のお気に入りの場所の一つだ。ここでは、平日は地元住民が散歩や休憩などで穏やかな時間を過ごし、休日になるとイベント会場としてキッチンカーが並ぶなど、観光客にも人気の石巻ならではの空間となっている。

川沿いの「かわまちオープンパーク」で憩いのひとときを過ごす人々

 二人がかわまちオープンパークを好きになったのは、小学6年生から中学校にかけてのコロナ禍がきっかけ。感染拡大防止のために休校が続き、外出も気軽にできない中で、両親と一緒に夜の散歩に行くのが日課となり、その時によく訪れたのがこの場所だった。
 「北上川の上流の方から堤防の上をぐるりと歩いて、かわまちオープンパークのベンチで一休みしてから帰るのがいつものコースだったんです」
 「夜になると、川沿いにライトが灯されて綺麗だし、川から吹く風が気持ち良いんですよ」
 優那さんと謙吾さんは、フェリーの発着所のそばにある思い出のベンチに腰掛けながら、コロナ禍のままならない日々の中で見つけた癒しの時間を、そう教えてくれた。

いつもの休憩場所に腰掛けて気持ち良い風を感じる

 普段は夜に来ることが多いこの場所を、いつもとは違う土曜日の昼下がりに歩きながら、「同じ場所なのに全然雰囲気が違って、なんだか新鮮で、この時間も良いですね」と謙吾さん。すると少し歩いた先に見慣れない建物があり、気になって見てみると、扉にはコーヒーカップのロゴとともに、「CAFE STONE WRAP(カフェストーンラップ)」という店名が書かれている。二人は、「せっかくだから」と目を見合わせて扉を開けた。

珈琲工房いしかわの新店舗「CAFE STONE WRAP(カフェストーンラップ)」

 店内には、壁一面に昭和の石巻の街並みが写った大きなパノラマ写真が貼られ、案内された外向きのカウンター席からは、北上川の美しい景色を真正面に望むことができる。「今日はいつもと違う時間に、いつもと違う場所で一休みだね」などと言葉を交わしつつ、おすすめの自家焙煎のコーヒー…ではなく、ジュースとカフェラテをそれぞれに味わった。
 「家族との思い出の場所だった『かわまちオープンパーク』に、今日また1つ好きな場所が増えました」。優那さんはそう言いながら、普段よりもどこかゆったりとした流れに感じられる北上川を愛おしそうに眺めていた。

店内から見る景色は、不思議と普段よりもゆったりと感じる

好きな人:新たに出会った「石巻の面白い大人たち」

 通っている石巻高校ではともに新聞部の部員として活動する優那さんと謙吾さん。その新聞部では「地域に寄り添う新聞づくり」というスローガンを掲げており、優那さんは活動をしていく中で、「石巻のまちに関心を寄せるようになった一方で、幼少期からずっと石巻に住んでいるのに、まちのことをよく知らなかったことにも気が付いたんです」と地域との関わりを意識し始めたきっかけを語る。
 そんな時に目に入ったのが、石巻の企業や団体のもとで高校生がボランティアを行う「まきボラ」というプロジェクトへの参加募集のチラシ。「まちのことをもっと知りたい」。そうした想いを胸に二人は、新聞部の活動と近しい仕事を体験できる『口笛書店』という出版社でのボランティアを決めた。

2023年のまきボラの活動の合間に、日野さんへの取材を行った

 そこで出会った口笛書店代表の日野淳さんが、その後に広がる「石巻の面白い大人たち」の入り口となった。二人は「日野さんが、石巻のまちで初めて知り合った大人で、何よりもまちの中に知っている大人ができたということがとても心強かったんです」と言い、その喜びのまま活動の合間に日野さんへの取材を決行。その取材記事が載った校内新聞『鰐陵新聞』の見出しには、二人の驚きと喜びが表現されるように「町の面白いおじさん」という文字が踊っていた。

浅野さんが営む「焚火 BBQ Tool NOGIBi」を訪れた二人

「もっと色々な大人に出会いたい」と、その後は、まちの様々な活動に積極的に参加。優那さんは、狩猟やジビエ関連の事業を行う「ヤマノメグミ合同会社」でのまきボラ活動や、「犬楽園フェスタ2024」の運営ボランティアなどにも携わった。
 一方で謙吾さんも、初めて自分一人で立てた企画を部内で提案し、部員たちとともにまちの大人への取材を実施。立町通りでアウトドアセレクトショップ「焚火 BBQ Tool NOGIBi」を営む浅野太一郎さんへの取材を通して、熱い想いを持ってまちで活躍する大きな背中も目の当たりにした。

アイトピア通り沿いの「カンケイマルラボ」前に出店している「カレー屋Disco」の園田凌さんと

 まちの“好き”を巡る中では、新たに「カレー屋Disco」の店主で旅人でもある園田凌さんと出会い、普段は聞けない全国やインドのエピソードに驚かされた。また、アイトピア通りにあるカフェ「IRORI石巻」では、多くのつながりを持つスタッフの佐野亜希さんと出会い、まだ見ぬ「石巻の面白い大人たち」への興味が膨らんでいった。
 次はどんな大人に出会えるのか。二人は「石巻には面白い大人たちがたくさんいて、そうした方々と出会うたびに、石巻のことがさらに好きになっていっている気がします」と、人を通じたまちへの愛着を深めている。

地元の新しい“好き”に気付く日々

 「ずっと地元に残って、貢献したい」

 これは石巻の大人たちと知り合う中で、優那さんと謙吾さんが共通して抱くようになった想い。二人は「大人の皆さんとつながり始めてから、石巻というまちがこれまでとは全く違って見えるほど、魅力的に感じるようになったんです」と、“好き”との出会いによる心境の変化を語る。
 謙吾さんは「僕は今、薬剤師を目指して勉強しています。自宅や施設にいる患者さんのもとに訪問して薬を届けたり、服薬指導をしたりという仕事を通して、まちの一人ひとりとつながりを持ちながら、石巻に貢献していきたいんです」と夢を語った上で、「そして、僕もいつか『石巻の面白い大人』になりたいと思います」ときっぱり。そう語る謙吾さんの姿は、かつて内気な性格だったとは思えないほど堂々としていた。
 また優那さんは、「私は、元々建築に興味があったのですが、石巻のまちと関わる中で、人と人がつながることのできる場づくりをしたいと感じるようになりました。石巻のまちを形づくる役割を担いながら、新しく石巻のまちに来た人たちにもまちの魅力を伝えられるように存在になりたいです」と自らの夢に「石巻」という大切な場所を重ねて、未来を描いている。
 成長させてくれた場所。大変な時期に癒しとなった場所。いつもとは違う時間。いつもとは違うお店。それまで知らなかった石巻の人々。生まれ育った石巻の“好き”に一つずつ出会い、そこから新たな“好き”を見つけ続けている優那さんと謙吾さん。二人にとって石巻は、「地元」だけど「新しい」場所。だから今日も、また新しい“好き”に出会えるワクワクを胸に、二人は石巻のまちへと出かけていく。

本記事で紹介したお店の情報はこちら
石巻市子どもセンター らいつ
かわまちオープンパーク
CAFE STONE WRAP
焚火 BBQ Tool NOGIBi


WRITTEN by 口笛書店
2019年6月、宮城県石巻市に生まれた出版社。石巻に在る出版社だから作れる本、口笛書店だから出せる本というものはなんなのか。時間をかけて模索していきながら出版活動を行っていきます。地元での出版活動のほか、関東を中心に書籍の執筆編集、ウェブコンテンツの企画編集、広告、コピーライトなど、言葉を取り巻くクリエイティブコンテンツの制作も手掛けています。
公式HP|口笛書店

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