《気になるスポットに潜入してみた!|第2弾》マンガ・アニメ好き集まれ! 創作活動がはかどる新施設がオープン!

潜入場所|いしのまき MANGA lab. ヒトコマ(宮城県石巻市中央二丁目8-11)

「マンガの街・石巻」を代表する観光施設と言えば「石ノ森萬画館」…、ですが、2023年10月にマンガやアニメの楽しさを体験できる新たな施設が誕生したことをご存知でしょうか?「何かが新しくできたのは知ってるけれど…」といった多くの声を受けて、今回は、石巻のマンガ文化に新たな風を巻き起こすべくオープンした「いしのまき MANGA lab. ヒトコマ」に潜入しました!

目次
 ・街で噂の「新しい施設」の扉を開けてみると…
 ・「ヒトコマ」でできることを徹底解明!
 ・マンガの力で人々の人生を豊かにするためには
 ・「見る」楽しみだけでなく、「創る」楽しみも

街で噂の「新しい施設」の扉を開けてみると…

 JR石巻駅から石ノ森萬画館までの道沿いには、「漫画の王様」・石ノ森章太郎先生が手がけた様々なキャラクターのモニュメント像が立ち並ぶ。その一つひとつを辿るように歩き、橋通りで「さるとびエッちゃん」に出会ったら、今回の潜入先である「いしのまき MANGA lab. ヒトコマ」はもう目と鼻の先だ。

 グレーと白を基調に、差し色の赤が印象的なその建物の看板には「いしのまき MANGA lab.ヒトコマ」の文字。


 2023年10月のオープン後、地元住民の間でも「何か新しい施設ができたぞ」と噂にはなっていたものの、実際にその施設がどういったものなのかを知る人はまだ少ない。ということで、期待と不安を胸に、恐る恐るその扉を開けてみる。


 外観から想像していたよりも広いその空間に驚いていると、「ようこそ!」と、「ヒトコマ」を運営する街づくりまんぼうの苅谷智大さんが出迎えてくれた。そして、苅谷さんの爽やかな笑顔に導かれるままに、まずは施設内を探索することに。

 施設内は、外観と同様にグレーと白を基調とした清潔感のある雰囲気。天井部分に設置されたマンガのコマ割りを思わせる本棚には、マンガや画集、イラストの教本などが並ぶ。

 4人掛けのテーブル席だけでなく、窓際の一人席もあり、壁に目を移すと、施設を訪れた有名漫画家によるイラストとサインのほか、黒い壁面には地元の桜坂高校の美術部の皆さんが描いたクジラなどの石巻らしい壁画も描かれている。

 苅谷さんは「オープンしたばかりなので、機能も魅力もまだまだこれから。もっともっと充実させていかないといけないんです」と謙遜するが、今だってすでに少し見て回っただけでももうワクワクが止まらない。

「ヒトコマ」でできることを徹底解明!

 とは言え、この「ヒトコマ」という場所がどのような場所なのか。「なんとなく楽しそう」なことは分かりつつも、まだまだ謎は多い。

 そこで、「ヒトコマ」では実際に何ができるのかを聞いてみたところ、苅谷さんからは「マンガやアニメを好きな人たちが創作や交流活動を行うことができる施設です」と、シンプルな答えが返ってくる。
 なるほど…と、納得しそうになるが、皆さんの「どんな施設なの?」という疑問に応えるために、もっと具体的に聞くことは潜入部隊としての最低限の使命。すると、苅谷さんが次のように、分かりやすく「ヒトコマ」の機能について紹介してくれた。

【ヒトコマでできること】

①創作活動
 施設のデジタル機材や画材を使って絵を描くことができる。もちろん、自身の機材や画材を持ち込んで創作をすることだって可能だ。施設内で印刷することもできるほか、創作をするのが初めての場合でも、スタッフが丁寧に教えてくれる。

②作品へのアドバイス
 創作した作品や、来館者が日頃創っている作品については、イベント時などにプロからのアドバイスをもらうこともできる。

③マンガ・教材で勉強
 マンガやイラストの教材本が用意されており、無料で閲覧することができる。

④教室やイベントの開催
 第一線でご活躍されている漫画家や声優の皆さんを招いた教室やイベントも開催。オープンから現在までに、アナウンサーを招いた「伝わる話し方講座」や「はじめてのCOPIC講座」などを実施し、今後も様々な企画を計画している。

⑤交流の促進
 こうした機能や活動を通じて、来館者同士、来館者とスタッフ、そしてプロの講師の方々との交流を深めていく。

⑥画材の販売
 マンガやイラストの創作に必要なペンやコピックなどの画材の販売も行っており、皆さんの創作を後押ししている。

 そう、これらが謎に包まれていた「ヒトコマ」の、そして、苅谷さんが言っていた「マンガやアニメを好きな人たちが創作や交流活動を行うことができる施設」の正体。そして、そうなると気になってしまうのが、なぜこうした施設を今、オープンしたのか。そこには20年以上にわたる「マンガの街・石巻」の歴史と、未来への期待が隠されていた。

マンガの力で人々の人生を豊かにするためには

 石巻が「マンガの街」を掲げ、地域活性化の中核施設として石ノ森萬画館が開館したのが、今から22年前の2001年。以来、同館では震災による休館を経ながらも現在まで、館内での展示企画にとどまらず、石巻市中心市街地の各施設と連動した企画や、第一線で活躍されている漫画家や声優の皆さんの協力を得たイベントなどによって、全国にマンガやアニメの魅力を発信してきた。

 そうした中で今から2年前の2021年、同館は開館20周年の節目を迎えようとしていた。当然、大切な節目に際しては盛大なセレモニーも検討されたが、世の中は新型コロナ禍の真っ只中。規模を縮小せざるを得なかったのだが…。

「開館20周年の節目はもう二度と訪れないもの。セレモニーはできないにしても、この機会に何らかの形で『マンガの街・石巻』の軌跡や石ノ森萬画館の歴史を振り返ることはできるはず」

 そう語る苅谷さんをはじめとした街づくりまんぼうのスタッフが作ることにしたのが、石ノ森萬画館の20年の軌跡をまとめた記念新聞。20年前と言えば、愛知県出身の苅谷さんにとっては、石ノ森萬画館はもちろん、石巻に出会う前のことだ。

「管理運営する会社の一員として、石ノ森萬画館がどのような想いで開設されたのかはもちろん知っていました。ですが、過去の資料を改めて見返す中で、私が出会う前の石巻の姿や、石ノ森萬画館の開館に関わった多くの方々の情熱にもう一度、より深く触れることができたんです。そしてそれは、マンガを活かしたまちづくりの歴史の重みそのものでもありました」

 そうして歴史の重みを噛み締める中で湧き上がってきたのが、「今の自分たちはこうした方々の想いに応えられているのか」という疑問。さらに「まちづくりというものは、人々の人生を豊かにするもの。だとすれば、これからの私たちが目指すべきなのは、マンガの力で人々の人生を少しでも豊かにすることなんじゃないか」という未来への想いだった。

「見る」楽しみだけでなく、「創る」楽しみも

 実際、『仮面ライダー』が大好きだった石巻市出身の俳優・小松準弥さんは、小学生の頃、石ノ森萬画館のオープニングに立ち会ったことをきっかけに『仮面ライダー』への想いを膨らませ、『仮面ライダーリバイス』でその夢を叶えた。また、仙台市在住のマンガ家・スズキスズヒロ先生は、子どもの頃に訪れた石ノ森萬画館をきっかけにマンガやアニメに興味を持ち、マンガの道を志した。これは同館が、観光施設として「見る」だけでなく、そこからさらに、人生を豊かにするための場所にもなっていたということでもある。

「こうした方々の姿を見たり、様々な来館者の声をお聞きしているうちに思ったんです。今までは観光として『見る』という楽しみが大きかったのですが、そこからもう一歩、『マンガの力』で人生を豊かにするには『創る』という楽しみを体験できる場所が必要なんじゃないのかと」

 それから2年後、コロナ禍も落ち着きを見せた2023年10月。橋通りにオープンしたのが、この「ヒトコマ」である。街づくりまんぼうにとっても、石ノ森萬画館以外のマンガの施設を開設するのは今回が初めて。施設名の「ヒトコマ」には、「漫画やアニメが好きな石巻の皆さんが、創作の楽しさに触れる“ヒトコマ目”を応援できるような場所にしたい」という想いを込めた。

「創作の場所、と言うと、どうしても敷居が高いように感じられるかもしれませんが、『ヒトコマ』はもっと純粋に、絵を描いたり、物語を創ったりすることの楽しさを感じてもらう入り口の場所です。なので、マンガやアニメにほんの少しでも興味があったら気軽に訪れてみて欲しいですね」


 この話を聞くと、「もしかしたら、この場所から将来の漫画家やアニメーターが誕生するかも」と期待してしまうのだが、苅谷さんの考えは少し違う。

「もちろん、そうした子たちが将来、漫画家やアニメーターになってくれたらそれは嬉しいですが、それはあくまで結果としてのお話。まずは何よりも絵を描いたり、物語を創ったりすることの楽しさや喜びを感じてもらえたら十分だと思っているんです。将来そうした仕事に就かないにしても、きっとこの体験は人生を豊かにしてくれるはずですから」

 苅谷さんはそう熱っぽく語った後、「今後は、ヒトコマを起点として、石巻の街中にギャラリーや滞在制作のできる施設、さらには画材屋さんなんかがオープンしたら面白いなと。そうして、マンガを中心にした人の輪が広がっていくまちにしていきたいんです。当然、簡単なことではないですが、物語を描くのはやっぱり楽しいですからね」と、ヒトコマができたことで苅谷さんの中に生まれた大切な物語を教えてくれた。

 こうして、街で噂となっていた「ヒトコマ」への潜入取材を終えて外に出ると、来る時に出会った「さるとびエッちゃん」のモニュメントと再会する。そして、これまでなんとなく見ていたモニュメントのキャラクターの一つひとつも、元々は「絵を描くのが好き」という少年の純粋な気持ちをきっかけに生まれたんだ、ということに改めて気付く。
 そんな帰り道を歩きながら、自分ならどんな絵を描こうかな、自分ならどんな物語を創ろうかな、と想像してみる。するとどうだろう、それだけでもうすでに気持ちが豊かになっていく気がしてくるのだ。

 マンガを通して、みんなの人生がもっともっと豊かになる。
 そんな物語の“ヒトコマ目”が、この場所から描き出されていく。

いしのまき MANGA lab.ヒトコマ
住所|宮城県石巻市中央二丁目8-11
電話|0225-90-9816
アクセス|JR石巻駅から徒歩12分
開館時間|10:00~17:00
休館日|毎週火曜日、水曜日
入館|無料
※デジタル機材などの利用には年間パスポートの登録が必要です
年間パスポート登録料|18歳未満年間550円/18歳以上30歳未満3,300円/30歳以上5,500円

最新情報はいしのまき MANGA lab.ヒトコマのSNSをご覧ください。
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WRITTEN by 口笛書店
2019年6月、宮城県石巻市に生まれた出版社。石巻に在る出版社だから作れる本、口笛書店だから出せる本というものはなんなのか。時間をかけて模索していきながら出版活動を行っていきます。地元での出版活動のほか、関東を中心に書籍の執筆編集、ウェブコンテンツの企画編集、広告、コピーライトなど、言葉を取り巻くクリエイティブコンテンツの制作も手掛けています。
公式HP|口笛書店

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